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2014年3月23日 (日)

ラバ・ザ・ミクソリディアン

相変わらずヘンな題名だが、このラバはLoverではない。騾馬、ロバとウマのアイノコだ。英語では、mule。ミュールと言っても、サンダルではない。

ディープ・パープルの曲で一番好きなのは、「ハイウェイ・スター」でもなく、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」でも「ブラック・ナイト」でもなく、この「ミュール」。アルバム「イン・ロック」の後、「マシン・ヘッド」の前の、「ファイアー・ボール」に入っている。

歌詞がまた何を言っているのかわからない不思議なタワゴトで、逆説的によく分かる。「スモーク・オン・ザ・ウォーター」あたりが典型的だが、ディープ・パープル(というより、ジョン・ロード)にとっては演奏の品質・構成の独自性・既存からの意外性・商業的なヒット性のほうが重要で、たぶん歌詞の中身なんかはドーデモよかったに違いない。例えば、クリームがそうだった。

イアン・ペイスの終始一貫したドラミング・パターンは素晴らしいの一言。こういうのは、ほかに聞いたことがない。もしあれば、「ミュール」のパクリだと多くの人に思われるだろう。ライブの名盤「メイド・イン・ジャパン」では、「ハイウェイ・スター」「チャイルド・イン・タイム」「スモーク・オン・ザ・ウォーター」に続く4曲めに収録されていることでも、彼らの中での位置付けはわかる。30センチLP2枚組という物理的な制約の中で、1972年当時の演奏順が実際はどうだったかとしても、だ。

曲の基本コード進行は、A/B/D。Bmではなく、Bなのがニクイところ。このパターンはクイーンによくある。そして何より、メインフレーズのコードはA/G。リッチー・ブラックモアのフェンダー・ストラトとジョン・ロードのハモンド・B3がお互いユニゾンでメインフレーズを昇って行き、ジョン・ロードが2回めの帰り道でキースケールに沿って3度上の音をを重ねて降りてくる。この、キースケールに沿って、というのが実はとんでもなく重要なのだ。

ハードロックの様式美には、メインフレーズの長3度上にまったく同じフレーズを乗せる手法がある。ギターで言えば、4フレット上で同じリフを弾いて重ねる。キーボードと違ってギターならやれば簡単にできる。それはそれで効果的だが、どちらかというと意表を突くという面が大きく、メロディアスという雰囲気にはならない。

「ミュール」のジョン・ロードは、そうではなくAスケールの構成音で、いわゆる「譜面に書いたら上に乗る音」をそれぞれ重ねている。だから、長3度もあれば短3度もある。極めつけは、アクセントコードのA/G。つまり、Aメジャースケールの「シ」を半音下げて、定番Aキーのハードロックスタイルにしている。

メインフレーズを「ド=A」から昇って行くときにはAメジャーのイオニアン・スケール、行き着く先は「シ♭=G」で見事なミクソ・リディアン・スケールで降りてくる。この美しさは感激ものだ。理屈がわかってなくてもワクワクする。というよりも、このワクワクに理屈はいらないだろう。

この曲の真髄はスタジオ版だ。曲全体の収録にはフェイザーが多用されていて、イアン・ギランのボーカルも、リッチー・ブラックモアのギターも、不思議な浮揚感で漂っている。リリース後のライブではギターの出番もないような、イアン・ペイスのドラムソロ用ナンバーになっているが、スタジオ版はジョン・ロードに支えられたリッチーの独壇場と言っていい。ソロ前半のムチャ弾きから、アームでグイーンと落ちるメロディアスなソロ後半など、聞かせどころ満載である。ジョン・ロードの思惑通り、リッチー・ブラックモアも一般的なブルーノート、いわゆるクラプトン・スケールではなくクラシカルかつポップなスケールで弾いていて、意外性に息をのむばかり。一般的にはほとんど知られず、評価されていないのが残念だ。

バンド編成という意味では、クリーム編成・ツェッペリン編成もいいけど、やっぱりディープ・パープル編成が理想かなぁ、と思わせれられることも芝々。

「ミクソ・リディアン」というヘンな名前のスケールを知ったのは、高校の時に読んだ山下洋輔「ピアニストを笑え」からである。大事な本だったが、震災で本棚が倒れたあと、どの段ボール箱に入ったのか行方不明のままだ。

今は亡きジョン・ロードに、幸いあれ。2年前に亡くなった弟が一番好きだったアルバムは、ディープ・パープルの「ライブ・イン・ジャパン」だった。

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