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2014年8月

2014年8月16日 (土)

ジョン・レノンと同じメガネ、ください

ジュエリーと時計やメガネを扱っているお店でアルバイトしている、という若いお姉さんから聞いた話。

毎日いろんなお客さんが来るが、ある日、へんなオジサンが来た。会社を選択定年で退職したので、メガネを新しくしたい。今までずっとマジメなサラリーマン風のメガネだったので、これを機会にイメージを変えたい、ということらしい。

7年前に作ったという今のメガネを見ると、なんと折り畳みの部分が左右とも壊れている。つまり、折り畳めない。最初の2年ぐらいで左側が折れ、ずっとそのまま工具用の補修テープで固めておいたら、2年前ぐらいに今度は右側も同じように折れて、やはり同じように自前で補修してある。誰が見ても、シロウトがテープぐるぐる巻きで止めてあるという感じだ。人前で恥ずかしくないんだろうか。ないんだろうね。

でも今度メガネ作るのは本気らしくて、会社の近くの眼科医さんで作って貰った処方箋を持って来た。なんでも、高校の先輩で詳しい人がいるので相談したら、「絶対に眼科医に行って処方箋で作って貰うほうがいい」「いきなりメガネ屋さんでアルバイトのネエちゃんなんかに(失礼な)、ハイ今度は見えますか~?とか言われて作るとロクなことがない」「やっぱり眼科医に行って、メガネ用以外にも眼圧だの視野だのいろいろ調べて貰って、白内障とか緑内障とか飛蚊症とか、そういう機会じゃないと自分じゃ判らないだろ」「いつまでも若いと思ってちゃダメだぜ」とか何だとか、いろいろ言われた事をあれこれ演説したそうだ。

こういうお客さんには、お店の立場としては「そうですよね~」と話を合わせていれば良いのでラクに違いない。処方箋はそのまま使わせて貰い、今のメガネを預かる。ここからはネエちゃんではなく、お店側もオジサンの出番だ。ヘンなオジサンの言う事には、「そのメガネなんですけど…」「はぃ」「眼科医さんで、【ぅゎっ、これカキョーセーですね】って言われたんですよ…」「う~ん、そうかも知れませんね」「カキョーセーって何ですか?って聞いたら…」「はぃ」「【過矯正】、矯正し過ぎってことなんだってね」「そうです」。専門家の権威を見せる場面だ。

眼科医での話が続く。「でもね、メガネは勝手に過矯正になったりしませんから」「はぁ」「それは、貴方が年を取ったということなんですよ」「なるほど」。理屈が通っている。処方箋を作る段階では、そういう会話だったらしい。

遠近両用レンズのカタログで屈折率だとかを選んで、じゃあフレームは…という時になって、オジサンは持って来た大きな手提げ袋から、何かを大切そうに取り出した。ジョン・レノンのアルバム「イマジン」。しかも、今のCDではなく、発表当時(編集部注:1971年)の30センチLPだ。アルバム・ジャケットの顔の大きさがほとんど実物に近い。

「このジョン・レノンと同じメガネ、ください」。オジサンはそう言ったそうだ。ジョン・レノン、当時31才。今のオジサンとはかなり違うが、オジサンは全く気にしていない様子。「どうぞ、よろしくお願いします」。そのお姉さんの話によれば、お店は100年近い歴史があるそうだが、レコード持ってメガネ買いに来るようなヘンなお客さんはたぶん初めてなんじゃないかと思う、とのことである。

オジサンはジョン・レノン風の丸いフレームを決めてからも、あれこれ止まらなかった。「バンドでギター弾いてるんだけど」「どうしても、【レット・イット・ビー】と【イマジン】を弾きたくて、ピアノも少し」「メガネはずっとマジメ会社員風だったから、この機会にジョン・レノンになろう、と思って」「そろそろ午後の血圧測る時間なんだけど、上がってるだろうなぁ」。

そのヘンなオジサンというのは、実はだいたい見当が付いている。たぶんきっと、あの人だと思う。

 

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